作物起源/降下・付与型

概要

■作物起源神話の一形式/天からの作物/(降下神への種子の付与)

 作物起源さくもつきげん神話の一つで、支配者的性格の天神てんじんが神や人間を地上に派遣・降臨させるに際し、穀物こくもつの種子等を与え、それを(命令として)地上にひろめさせたとする形式。海や天から種子が自然に漂着ひょうちゃくし、それを獲得かくとくするという穀物漂着こくもつひょうちゃくとは異なり、支配者的性格が強い。そのため、地域によっては始祖神話しそしんわ▲の一環いっかんを成すという点でのみ意味を持ち、純粋じゅんすい作物起源さくもつきげん神話としての意味合いがうすれている場合もある。
 なお、死の起源しのきげん神話におけるバナナ型農耕のうこうによる天地分離てんちぶんりにおいても、天や天神てんじんから作物を受け取るという要素が見られるが、重要なのは派遣者の存在や命令・目的等の有無であり、それがない場合は意趣いしゅがまったく異なるものとなる。

分布

 ギリシアのデメテル神話のほか、日本と朝鮮半島に見られ。後者二つではアルタイ系支配者文化に属すると推測される始祖神話しそしんわ▲の一環として語られている。吉田敦彦よしだあつひこ大林太良おおばやしたりょう等は、印欧語族いんおうごぞくの神話がアルタイ系牧畜民ぼくちくみん文化を媒介ばいかいとしてもたらされたうちの一つと論じている。

類例

■朝鮮半島の朱蒙神話 - 『旧三国史』

 ――朱蒙(しゅもう)が母の国たる扶余(ふよ)を去り南下して高句麗(こうくり)を建国せんとする首途に当たり、その母は、
 乃(すなは)ち五穀の種を裹(つつ)み以て之を送る。朱蒙、自ら生別の心切に、その妻子を忘る。朱蒙大樹の下に息ふに、双鳩ありて来り集る。朱蒙曰く、「是れ神母の麦子を送らしめしものなるべし」。乃ち弓を引いて之を射る。一矢倶に挙ぐ。喉を開きて麦子を得たり。水を以て噴くに、鳩更蘇して飛び去る。
引用元:『神話の系譜』大林太良著(P123)
 朱蒙が扶余の国を去り、高句麗の建国に出発しようとしたとき、母の柳花は彼に、五穀の種子を包んだ包みを与えた。しかし朱蒙は母と別れる悲しみに取りまぎれて、つい麦の種子だけを忘れて旅立ってしまった。
 朱蒙が旅の途中で、ある大樹の下で休息していると、そこに二羽の鳩が飛んできたので、彼は「これは母の女神が、わたしに麦の種子を送らせたのに違いない」といって、弓で射ると、一本の矢で二羽とも射落とすことができた。鳩の喉を開いてみると、案のじょう麦の種子がみつかった。朱蒙がその後で鳩に水をふきかけてやると、二羽ともに蘇生し、元気にまた飛び去っていった。
引用元:『日本神話の源流』吉田敦彦著(文庫版P192-193)
 朱蒙は、天帝の子天王郎と、河の神の娘柳花を父母として、北方にあった夫余の国で生まれたが、夫余では国王や王子たちに疎(うと)まれ、志を得られなかったので、三人の従者を連れて南に下り、沸流水という河のほとりに都を定めて、高句麗の始祖となった。ところでかれは、夫余を離れるにあたって、母の柳花に別れを告げたが、そのおり以後高句麗の祖母神として祭られることになるこの女神は、かれに母子の別れの形見として、五穀の種の入った包みを授けた。
引用元:『世界の始まりの物語』吉田敦彦著(P87)
関連形式:朱蒙伝説

■ギリシア神話のエレウシスの祭儀

 デメテルが聖婚によって穀物の豊かな稔(みの)りを表す神子プルトスを生み、また寵愛(ちょうあい)するトリプトレモスに麦の種子を与えて、これを天から地上に弘めさせた(略)
引用元:『神話の系譜』大林太良著(P124-125)/吉田敦彦 1974
 デメテルは、エレウシスの伝承によれば、彼女を館に滞在させ親切にもてなしたケレオス王の子の一人、トリプトレモスに特別の愛情をそそぎ、わが子のようにいつくしみ育てたうえに、彼を有翼の竜の引く車に乗せ、麦の種子を持たせて、空から世界に農業を広めてまわらせた。
引用元:『日本神話の源流』吉田敦彦著(文庫版P151)
関連形式:デメテル神話

日本神話との比較

■日本書紀 - 天孫降臨

【参照】【紀・神代02b-09-02】

 『日本書紀』の一書(二)において、天照アマテラス大神は子の天忍穂耳アメノオシホミミを地上世界に降臨させるに際して、神器とともに斎庭之穂ゆにはのいなのほを授けており、また、直後に孫の天津彦火瓊瓊杵アマツヒコホノニニギが生まれると、その孫にそれらを授け直している。以降に作物起源さくもつきげん神話としての要素は見られないが、これは地上世界における農業(及びその豊穣ほうじょう)の支配権を与える意味が認められる。また、吉田敦彦よしだあつひこはこれをデメテルとの共通性の一つとして論じている。

■『日向国風土記』 - 『釈日本紀』引用

 このときホノニニギは、地上においてオオクワ(大鋤)とオクワ(小鍬)という、農具を意味すると思われる名を持つ二名の土蜘蛛(つちぐも)によって迎えられた。そして彼らのすすめにしたがい、「千穂の稲を搓(ても)みて籾(もみ)と為して、投げ散らしたまひ」て、暗黒であった世界を日月の照り輝く明るい世界に変えた。
 ――これはわれわれに、トリプトレモスが農業を世界に広めるために派遣される場面を描いた、ギリシアの壺絵などに、しばしばデメテルペルセポネが、彼に麦の穂と同時に農具の犂(すき)と闇を照らすための松明(たいまつ)を授与しようとしているところが表わされているのを想起させる。
引用元:『日本神話の源流』吉田敦彦著(文庫版P151-152)
引用元:『世界の始まりの物語』吉田敦彦著(P83) ※要約
関連形式:デメテル神話

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