メルシナ型

概要

■メルシナ型/メリュジーヌ・モチーフ(Melusine Motif)/豊玉姫型

 人間の男が龍蛇りゅうじゃの女(多くは水界を支配する王の娘)と出会って異類婚いるいこん▲をしたが、見るなのタブー▲(禁忌きんき)を破って本当の姿を見てしまったことで別離するという神話。名称は中世フランスの伝説における龍蛇りゅうじゃの名前に由来し、フランス語風にメリュジーヌ・モチーフとも呼ばれる。また、記紀神話から豊玉姫とよたまびめとも呼ばれる。
 異類婚いるいこん▲の発端ほったんは、海底の国や地底の国を訪れるという異郷訪問譚いきょうほうもんたん▲として語られていることが多く、失われた釣針つりばり融合ゆうごうして語られている例もある。これに関しては釣針龍女つりばりりゅうじょとして別項を立てる。
 また、龍蛇りゅうじゃの女は水界の王の娘であることが多く、結婚によって水界の呪力じゅりょくを得るという要素(水の支配モチーフ)や、その別離によって陸界と水界とが遮断しゃだんされるという要素が附随ふずいすることがある。また、その子孫として王族や氏族等の始祖が誕生するという要素が語られ、始祖神話しそしんわ▲に発展していることもある。
 なお、異類婚いるいこん▲(龍蛇りゅうじゃの女との結婚)と見るなのタブー▲が同一神話内で語られている場合は、間違いなくメルシナ型として分類することができるが、悲恋ひれんの物語であることから文学的・物語的に発展し、諸要素が変質している場合も多い。昔話等の禁室きんしつ▲も、そうした変質の一端いったん(日本の場合は報恩譚ほうおんたん▲の要素が加わったもの)と見られている。

分布

 日本、朝鮮半島、中国、インドシナ半島等、東アジアの沿岸部に顕著けんちょに分布している。ヨーロッパでは人魚にんぎょに関する伝承として変質へんしつして語られていることも多い。

類例

■『美しきメルジーネ』(ドイツ語版)

 フランスのボアチェ王国の名門エメリヒ伯の末子ライムントは、狩りの出先で、魔性の美女メルジーネに出会い結ばれる。そのとき彼女は、ライムントに「土曜日には決して私に質問したり、捜そうとしないで、一日中放っておくこと」という条件と引き換えに、あり余る財産と名誉と幸福を約束する。メルジーネの予言は実現する。
 ところがある日、ライムントは、土曜日に決まって姿を見せない愛妻が、不義を働いているのではないかと疑念を抱き、メルジーネの部屋の扉に穴を開けて覗いていると、

 妻が、湯殿に、一糸まとわぬ姿で座っているさまを見た。上半身は顔も形も麗しい女性の姿ながら、下半身はなんと巨大で長い見るも恐ろしい怪物の尾、瑠璃のように銀色とまだらに入り混じって輝くそのさまこそ、まさに世の蛇の姿にほかならぬ。

 誓いが破られたと知るや、メルジーネは夫の前から姿を消し、ライムント一族は連続して不幸に見舞われ、一挙に没落してしまう。
 ――メルジーネはフランス版では「妖精メリュジーヌ」となるが、ジャン・ド・ベリー公爵の司書ジュアン・ダラスという人物が『メリュジーヌ物語』(1392)を書き上げている。これに対抗して、クレドレットという男が『メリュジーヌ物語』を韻文で書きつづったが、この本をドイツ語に翻訳したのがテューリング・フォン・リンゴルティンゲンで、1456年にその訳書を刊行している。これを底本としてドイツの通俗文庫本『麗しのメルジーナ』は15世紀から16世紀にかけて広く愛読されるにいたった。
引用元:『カレワラ神話と日本神話』小泉保著(P169-170)

 これは神話ではなくすでに作品化さくひんかされたものであるが、名族に不幸が起きるという結末は、水界との結合及び破綻はたんの一面を語ったものであり、神話的要素の痕跡こんせきと見なせる。東アジアにおいては(両者の間に子が生まれることによって)獲得かくとくした水界の呪力じゅりょくが完全には消えず、始祖神話しそしんわ▲に発展しているのに対し、ヨーロッパにおいては結合の破綻はたんは、そのまま没落ぼつらく衰退すいたいつながるものとなっているようである。

■エストニアの物語

 水の母の娘、人魚は農夫の末子で粗野な青年と恋に落ち、彼を夫として水底の宮殿に連れて行って同棲した。人魚は、夫の前に現れるときは女の姿をしていたが、木曜日だけは一人で過ごした。彼女はこの日だけは邪魔しないように夫に頼み、彼と楽しんでいるとき、人魚と呼んではいけないと命じた。しかし、一年以上たつと、夫も怪しみ、嫉妬するようになり、妻の部屋のカーテンのすき間から覗いて見たいという誘惑に負けてしまった。見ると妻は半分人間、半分魚の姿で泳いでいた。
 男は幸福の条件を破ったので、妻と一緒に暮らすことができなくなった。やがて彼は人魚と最初に出会った浜辺に打ち上げられていた。起き上がって村に戻り両親を訪ねたが、もう三十年も前に亡くなっていたし、兄たちも死んでいた。彼が二、三日海岸を歩き回っていると、情け深い人が彼にパンを恵んでくれた。思い切ってその話を友人にすると、その晩男は姿を消してしまい、二、三日後に彼の死体が岸辺に打ち上げられていた。
引用元:『カレワラ神話と日本神話』小泉保著(P171)/Hartland, E. S. 1891
関連形式:浦島型▲

 この類例は昔話の『浦島太郎うらしまたろう』と結末が酷似こくじしており、ハートランドは「超自然的な時間経過」と「禁室きんしつ▲」とが組み合わさったものと分析ぶんせきしている。なお、ヨーロッパの人魚伝説においては、人魚と会ったことを他人に告げてはならないという禁忌きんきが(周知の約束事として)見えるが、それは見るなのタブー▲とほぼ同様の観念であるから、メルシナ型禁忌きんきの要素が変質・発展したもの、もしくは親縁関係しんえんかんけいにあるものと考えられる。

■朝鮮半島の建国神話 - 『高麗史』の作帝建の伝承

 唐から船で帰国の途中、竜王に頼まれて海底に行き、竜王の宿敵を弓矢で退治すると、それは妖狐であった。その礼として、竜王の娘と結婚し、霊能ある玉杖と魔法の豚を授かり、故郷に帰ってから王となった。妻の竜女は時々、邸のそばの井戸を通って里帰りするが、その入る姿を見てはならぬと夫を戒める。しかし、夫が竜の姿を覗き見てしまい、竜女は夫を責め、子を残して去る。その子の孫が王朝の建国者王建となったという。
引用元:(確認中)

 この類例は始祖神話しそしんわ▲として語られているものであり、その点で記紀神話との共通性が重要となる。なお、歴史学者の一部は、記紀神話の説話において山幸彦やまさちびこの子が始祖しそとはならず、(間に実体のない長い名前の人物を入れて)孫を始祖しそとしていることを不自然かつ作為的さくいてきであるとし、編纂者による創作・造作と決めつけるが、この類例においても、始祖しそは龍女との間に生まれた子ではなく、その子の孫(つまりは曾孫ひまご)となっており、まったくもって不自然ではない。

■中国の『捜神記』巻十四の伝説

 漢の霊帝のとき、江夏のという人の母親がたらいの中で行水していたが、いつまでたっても立ち上がらないと思っているうちに、海亀に変わってしまった。女中が肝(きも)をつぶして知らせに走ったが、家人がかけつけたときには、海亀は川の深い淵に戻ってしまっていた。
引用元:『日本神話の源流』吉田敦彦著(P87)

 この伝説では、見るなのタブー▲が結果として語られている。

■ビルマ北部のシャン人の始祖神話

 この説話の主人公は、水中にある竜神(ナーガ)の国の王女と結婚し、その宮殿で何ヵ月か夢のように幸福な日々を過ごす。その間竜王は、娘婿を驚かせないために、臣下の竜神たちに、常に人間の姿でいるように命じていた。ところがそのうちに、年に一度の水祭りの時がやってきた。この祭りのあいだだけは、竜神たちは、どうしても龍蛇(りゅうだ)の形に戻らないわけにいかなかった。そこで竜王の娘は、夫に祭りが終わるまでけっして宮殿の外に出ないでほしいと言いおいて、自分も本体に返り、祭りの歓楽の仲間入りをしに行った。
 ところが主人公は、好奇心をおさえることができなくなり、妻の言葉にそむいて王宮の屋根の上に出てみた。すると建物のまわりでは無数の巨大な竜たちが、身をくねらせていた。このありさまを見て、主人公は竜神の国にいることにすっかりいや気がさしてしまった。そしてその日の夕方、妻がまた人間の姿に戻って彼の側に帰ってくると、人間の世界に帰り年老いた両親と暮らしたいと言った。竜王の娘は、夫の願いをもっともなことと思い、彼を地上に連れ戻してやった。そして一つの卵を生み、これから生まれる子供を大切に育てるように夫に言いおいて、また水の世界に帰っていった。
 竜女の卵から生まれた息子は、成長の後、母の助けによりシナの皇帝の娘と結婚して、この国の最初の王になった。
引用元:『日本神話の源流』吉田敦彦著(P88)
引用元:(確認中) ※ほぼ同文
関連形式:始祖神話(卵生型

 この類例では、見るなのタブー▲を破ったことに対するばつは語られず、水界との結合の破綻はたんによるマイナス面も見られない。とはいえ、禁忌きんきをきっかけにして夫婦が別離しており、その詳細しょうさいにおいてはなんらかの葛藤かっとうが語られているものと推測される。

■カンボジアのアンコール・トムの起源伝説

 ロミーヴィセイに悪い王子がいた。父王は彼の髪の毛を剃(そ)り、口の中に横木を入れて筏(いかだ)に乗せて海に流した。筏はクク・トロクという島について動かなくなった。王子は島に生えた大木に登り、下に降りようとして、木の洞(ほら)の中に入ってしまった。どんどん中に入って行くと、地下の竜王の国に出、池のほとりで水浴していた竜王の娘と恋におちいり、結婚した。
 しかし王子はまた地上にもどりたくなった。そこで竜王は若夫婦のためにクク・トロクの島の上に王都アンコール・トムを作ってやった。竜王は土地を干拓(かんたく)してやり、国土ができた。年老いた竜王は毎日のように夫婦を訪れ、二人の幸福とすばらしい都を見るのを楽しみにしていた。
 ところが、都の人びとは竜王をあまり怖れるので、王子は四面のプローム神像を都の門の上に立てさせた。翌日、竜王がアンコール・トムに来たところ、都の門に恐ろしい敵の像があるのを見て、急いで地下界に逃げ込み、「お前たちの子孫のうち、徳のある者だけがアンコール・トムで君臨することができる」と呪(のろ)った。そこで、数多くの不幸がクメールの王族を見舞うようになったのである。
引用元:『神話の系譜』大林太良著(P214-215)/大林太良 1975

 この類例では明確な見るなのタブー▲は語られていないが、竜王の娘との異類婚いるいこん▲を発端ほったんとして水界(竜王の国)との結びつきが見られ、さらにその結びつきが破綻はたんし、その際に呪詛じゅその要素が語られている。大林太良おおばやしたりょうは、竜王による土地の干拓かんたくを水の支配モチーフの片面と見て、記紀神話において干満かんまん両面が語られていることと比較し、復讐ふくしゅうに使用しない点は異なるが、『日本書紀』一書においても水田経営に干満かんまん呪力じゅりょくを用いていることを指摘した。また、見るなのタブー▲に関して、国民が竜王の姿をおそれたとあり、それが水陸結合の分離の原因となっていることから、「純粋じゅんすいな形ではない」が、その痕跡こんせきが認められるとしている。

日本神話との比較

■記紀神話

 山幸彦やまさちびこの説話は異郷訪問譚いきょうほうもんたん▲であり、そこに水界を支配する王の娘との結婚の要素(異類婚いるいこん▲)、水界の呪力じゅりょくを得るという要素(水の支配モチーフ)、姿を見てはならないという禁忌きんきの要素(見るなのタブー▲)、それを破ったことによる夫婦別離と水陸の遮断しゃだんの要素、二人の間に生まれた孫が始祖しそになるという要素(始祖神話しそしんわ▲)等が語られており、東アジアにおけるメルシナ型の典型例と見なされる。ただし、記紀神話においては失われた釣針つりばりの展開の中で語られているという点が重要である。かつては両者の形式は別個べっこのものであり、それが日本において融合ゆうごうしたものと見なされていたが、近年では、最初から両者が融合ゆうごうして語られている例が少なからず見つかっていることから、そうした融合ゆうごう形式の分布の一端いったんである可能性が高まっている。これに関しては釣針龍女つりばりりゅうじょ及び白娘子・化け鯰はくじょうし・ばけなまずを参照。

■民話・昔話等

 日本の民話等の中には、異類婚いるいこん▲と見るなのタブー▲が組み合わさった禁室きんしつ▲の伝承が数多く存在しており、かつ一般にも広く知られている。結婚相手が魚やへび等、龍蛇りゅうじゃの女に類するものもあるが、大半はそれ以外の動物となっており、民話では水界すいかいとの結びつきや呪力じゅりょく獲得かくとくは見られない。とはいえ、神話と民話の関係等から、メルシナ型(もしくはそれと共通性を持った神話)の変質したものが民話における禁室きんしつ▲であると考えられている。

UP