卵生型

概要

■人類起源神話の一形式/卵生型/人類卵

 人類起源じんるいきげん神話の中でも、最初の人間が卵から生まれたとする形式。進化しんかの系統であるが、創造神そうぞうしんが卵を材料とする場合は創造そうぞうの系統ということになる。似た形式として、原古の巨大な卵から世界やそれを形成する万物ばんぶつが発生したとする宇宙卵生うちゅうらんせいがあるが、卵からなんらかの物質が発生するという根幹こんかんにある観念は共通するものの、分布域や伝承形態をにすることから、両者は別個のものととらえられる。

■始祖神話の一要素/卵生型

 建国神話けんこくしんわ▲や始祖神話しそしんわ▲等において、卵から重要人物が生まれたとする形式で、異常出生いじょうしゅっせい▲の例の一つ。人類起源じんるいきげん神話としての卵生らんせいの観念が特定の民族や集団、さらにはそれを象徴する一人の人物にのみ適用てきようされるようになったものと考えられるが、それ以外にメルシナ型等の異類婚いるいこん▲の結果として語られている場合もある。この形式は、卵が出現するまでの状況の違いから、(1)鳥の卵から生まれる鳥卵ちょうらん、(2)卵自体が人間に変わる化生けしょう、(3)天から卵が降ろされる降下こうか、(4)女性が卵を産む出産しゅっさんに区分されるが、異類婚いるいこん▲を区別するため、(4)を人間の女性に限定し、(5)に異類いるいを追加する。なお、卵ではなく白い石等に変化している例もある。

分布

 インドネシアを中心に分布しており、北は台湾や朝鮮半島、東はメラネシアやミクロネシア、西はインドやチベットにおよび、さらにそれ以外の地域にも分布するが、内陸アジアには見られない。台湾や朝鮮半島南部には(3)降下こうかが多く、朝鮮半島北部、アッサム、チベット等には(4)出産しゅっさんが多い。

類例(人類起源)

■インドネシアのスマトラ島のトバ・バタク族の神話 ※鳥卵型(区分1)

 原初には大地はなく、至高神ムジャラティは、三人の男と一羽の雌鶏を作った。鶏は、三個の卵を産み、これから三人の少女が出てきたので、これを三人の息子の妻とした。息子のうちの一人は娘を持ったが、この娘はいとこと結婚するのを嫌がり、機織をしていた。すると糸を天から落としてしまい、娘も追って海へと降りた。
 海には大蛇がいたが、娘はムジャラティから一握りの土を一羽の鳥に託してもらい、この土で世界を作った。しかし、大蛇は、頭上の大地をひっくり返した。そこで天神が八個の太陽を作り、海を干上がらせ、娘が剣で大蛇を退治した。こうして世界を再建した後、天神が娘のいとこの婚約者を投げ下ろし、結婚して人類の祖となった。
引用元:(確認中)
関連形式:創成型、大地を支える動物、複数の太陽、龍蛇退治▲

 この類例は、至高神しこうしんが最初に三人の男を創造しており、卵生らんせいだけを人類起源じんるいきげん神話として語っているわけではないが、人類の実際の始祖しそとなる男女はともに卵から生まれた少女を母としている。

■韓国の済州島の神話 ※降下型(区分3)+化生型(区分2)

 耽羅(済州島)には初め、人がいなかったが、山の麓の三つの穴から三人の神人が現れた。あるいは、天帝が投げ下ろした三個の真珠が穴を作り、その真珠から生まれたともされる。
引用元:(確認中)
関連形式:人類起源神話(出現型

 この類例中の真珠しんじゅは、卵の変質した要素と見られる。

■台湾のアミ族の神話 ※化生型(区分2)

 臼で大洪水を逃れた兄妹から、最初に生まれたのは二個の怪物で、これを水に棄てると一方は横に、他方は真直ぐに泳いで去り、それぞれ蟹と魚の祖先になった。この結果に失望した兄妹が、月にその理由を聞くと、月は「それは兄妹で結婚したためである」と答え、二人に「むしろをあいだに挿(はさ)み、これに穴をあけて交わるがよい」と教えた。兄妹が言われた通りにすると、白い石塊が生まれ、兄の死後、妹がこの石を抱いていると、それから四人の子どもが生まれ出た。
引用元:『日本神話の源流』吉田敦彦著(文庫版P114)
関連形式:兄妹始祖型洪水神話(洪水湧出型、水棲動物型

類例(異常出生)

■仏典 ※出産型(区分4)

 舎衛国の須達長者の娘の蘇曼が十個の卵を産み、その卵から十人の男子が生まれた。
引用元:(確認中)

■ビルマ北部のシャン人の始祖伝説 ※異類型(区分5)

 この説話の主人公は、水中にある竜神(ナーガ)の国の王女と結婚し、その宮殿で何ヵ月か夢のように幸福な日々を過ごす。その間竜王は、娘婿を驚かせないために、臣下の竜神たちに、常に人間の姿でいるように命じていた。ところがそのうちに、年に一度の水祭りの時がやってきた。この祭りのあいだだけは、竜神たちは、どうしても龍蛇(りゅうだ)の形に戻らないわけにいかなかった。そこで竜王の娘は、夫に祭りが終わるまでけっして宮殿の外に出ないでほしいと言いおいて、自分も本体に返り、祭りの歓楽の仲間入りをしに行った。
 ところが主人公は、好奇心をおさえることができなくなり、妻の言葉にそむいて王宮の屋根の上に出てみた。すると建物のまわりでは無数の巨大な竜たちが、身をくねらせていた。このありさまを見て、主人公は竜神の国にいることにすっかりいや気がさしてしまった。そしてその日の夕方、妻がまた人間の姿に戻って彼の側に帰ってくると、人間の世界に帰り年老いた両親と暮らしたいと言った。竜王の娘は、夫の願いをもっともなことと思い、彼を地上に連れ戻してやった。そして一つの卵を生み、これから生まれる子供を大切に育てるように夫に言いおいて、また水の世界に帰っていった。
 竜女の卵から生まれた息子は、成長の後、母の助けによりシナの皇帝の娘と結婚して、この国の最初の王になった。
引用元:『日本神話の源流』吉田敦彦著(文庫版P88)
引用元:(確認中) ※ほぼ同文
関連形式:メルシナ型(異類婚+見るなのタブー)、始祖神話▲

■ベトナムの起源神話 - 『大越史記全書』『嶺南恠列伝』 ※異類型(区分5)

 大昔、神竜陽王との間の子、貉竜君帝來の女、嫗姫をめとって百男を産んで百粤の祖となった。百男は俗に百卵と伝えられている。一日貉竜君嫗姫に、我は是れ竜種、なんじは是れ僊種、水火相剋し、合併し難い、といって別居を申し出た。五十子を分けて母に従って山に帰らせ、その他の五十子は父とともに南に行ったという。
補足:「庶」は「手」偏に「庶」。紫字は引用元からは性別が不明な部分。
引用元:『神話と神話学』大林太良著(P124)/川本邦衛 1967、松本信広 1969
 神竜を母として生まれた陽王(けいようおう)の子貉竜(らくりゅう)君は、仙種の女、嫗姫(うき)と結婚し、彼女は百個の卵を生んだ。しかし、貉竜君嫗姫と離婚し、百人の息子を五十人ずつ分けて、それぞれ父あるいは母につけ、母は山に、父は南の平野に行ったという。
 ――(略)、ここで面白いのは、夫婦別れをするに当たって、貉竜君が妻の嫗姫に言った言葉である。
 我は是れ竜種、(なんじ)は是(これ)僊種〈仙種〉にして、水火は相剋(あひたたか)ひ、合併せんこと難い
引用元:『神話の系譜』大林太良著(P243)
関連形式:山と海の対立による洪水

■朝鮮半島北部の高句麗の始祖神話 ※異類型(区分5)

 ある日、河伯(水神)の娘の柳花が川辺で遊んでいると、そこに天帝の子が現われて関係を持ってしまう。その後、柳花は扶余王の金蛙王に召されるが、天帝の子とのいきさつを話して幽閉されてしまった。
 柳花はそこで卵を産み落としたが、これを不吉に思った王は、その卵をあちこちに捨てさせようとした。しかし、動物でさえも、その卵を踏みつけることなく慈しんだため、卵を柳花に返すと、そこから高句麗の始祖となる朱蒙が生まれた。
 ――あるいは、幽閉された時に、日光がその身を照らして懐妊し、卵を産んだともされる。
引用元:(確認中)
 河の神は、柳花が自分の教えに従わず、家名を辱しめたといって激怒した。そして左右の者に命じて、彼女の唇をしばって三尺もの長さに引きのばさせ、奴婢(ぬひ)二人だけをつけて、太伯山(たいはくざん)の南にある優渤水(ゆうぼつすい)という沢に追いやってしまった。
 あるとき、この沢で魚を捕って暮らしをたてていた扶雛(ふすう)という名の漁師が、東扶余の国王の金蛙(きんあ)に、「ちかごろ梁(やな)の中の魚を盗む者があるのですが、なんの獣かわからず困惑しております」といって訴えにきた。金蛙はそこで漁師たちに命じ網を引かせて、この魚泥棒を捕らえさせようとしたが、網を破られたので、つぎには鉄の網を使ってようやくこれを捕らえ、引き上げてみると、網の中から石の上に座った女が現われた。この女は唇が長くて、ものをいうことができなかったが、金蛙が部下に命じて唇を三たびにわたって切らせると、ようやく口がきけるようになり、自分は天帝の子の妃であると名のった。
 金蛙は彼女を別宮に連れていかせ、部屋の中に幽閉しておいた。ところが彼女は窓から差しこむ日の光によって懐妊して、やがて左脇から五升もの大きさの卵を生み落とした。金蛙は、人間の女が鳥の卵を生むのは不祥であると考え、この卵を馬場に捨てさせたが、たくさんの馬のどれもこれを踏みつぶさなかった。また山奥に捨ててみたところが、百獣がこぞってこれを護り、そればかりか、空が曇っているときにも、この卵の上にだけは常に日光があった。しかたなく卵を母に送り返して養わせたところ、やがてこれが開いて生まれたのが朱蒙(しゅもう)であり、彼は生まれながらにして体格がすぐれ、泣き声もなみはずれて大きかった。そして一月もたたぬうちに、一人前に話ができるようになり、母に向かって、「蝿が目にたかってうるさくて眠ることができませんので、どうかわたしに弓矢を作って下さい」といった。母がいばらの木で弓矢を作って与えると、朱蒙は紡車の上にとまっている蝿を射て、百発百中射殺した。
引用元:『日本神話の源流』吉田敦彦著(文庫版P188-190)
関連形式:始祖神話▲、日光感精型▲、朱蒙伝説

■朝鮮半島南部の新羅の始祖神話 ※降下型(区分3)

 辰韓(後の新羅)の六つの村の村長が集まり、新たな統一した国をつくるために会議を開いた。そして、徳のある国王を迎えたいと天に祈ると、揚山の麓に天から異様な光が射し込み、一頭の白馬が現われた。
 村長たちが近づいて見ると、白馬は紫色に輝く一個の大きな卵を祈るように跪いていた。その卵からは美しい男子が生まれた。この子は、赫居世(ヒョコセ)と名付けられ、後に新羅を建国する始祖となった。
引用元:(確認中)
関連形式:始祖神話▲

■伽耶の始祖神話 ※降下型(区分3)

 伽耶(加羅)の九つの村々の村長らが集まって迎神の祭りを行っていると、天から紫色の紐が垂れ下がってきた。紐の端を見ると、黄金の卵が六つ入っている赤い包みがあり、その中の一つから大伽耶国の始祖である首露(スロ)が生まれ、また、他の五つからも六伽耶の王が生まれた。
引用元:(確認中)
関連形式:始祖神話▲

 これは卵ではないが、他の朝鮮半島の類例のように、天から降下した真珠から始祖が生まれており、卵の要素が真珠に変化したものと考えられる。

■『三国遺事』「駕洛国記」 ※出産型(区分4)

 首露(しゅろ)が天下って宮殿を建てた。すると玩夏(がんか)国の含達(かんだつ)王の夫人がちょうどそのころ妊娠していて卵を産み、その卵の中から人間が出てきた。そして、その人を脱解(だっかい)と呼んだ。この身長三尺、頭の丸さ一尺の脱解が海を渡って首露王のところにやってくると、王位を奪いにきたのだと不遜なことを言った。そこで、脱解首露王は秘術を尽くして争った。脱解が姿を変えて鷹になると、首露王は鷲に変身した。脱解が雀になると、王は隼(はやぶさ)になった。脱解はとうてい首露王の敵ではなく、その国から逃げ去った。
引用元:『カレワラ神話と日本神話』小泉保著(P123)
関連形式:変身闘争譚(誓約説話の形式

日本神話との比較

■記紀神話 - 渡来氏族の伝承

【参照】応神記。垂仁紀。

 記紀の歴史部分には、天之日矛アメノヒホコ▼(記紀)や都怒我阿羅斯等ツヌガアラシト▼(紀)といった渡来系氏族の始祖しそ的存在の記載があり、その渡来伝承に附随ふずいする要素として、白い石や赤い玉から生まれた女神(記では阿加流比賣アカルヒメ)が朝鮮半島から日本に逃げて来たという比賣語曾社ひめごそのやしろ縁起譚えんぎたんが語られている。これらは卵からの誕生ではないが、朝鮮半島に顕著けんちょ卵生らんせいの変形と見られ、渡来系氏族が伝承していた神話が記紀に記載されるに至ったものと考えられている。記紀ともに出石いづし神社の神宝の説明の前後に位置しているほか、ともに渡来の時期を過去のものとして回顧的かいこてきに記載していることから、その地域に「すでに定住」していた渡来系集団(後の三宅連みやけのむらじ)の伝承が、神宝の由来を説明する過程で採用されたものと考えられる。(都怒我阿羅斯等ツヌガアラシトの伝承は類似のものであるから、対比たいひとして記載されたものであろう)。
 なお、『古事記』では、女性が赤い玉を生み、天之日矛アメノヒホコ▼が入手した後で女神に変身したとあり、出産しゅっさん(区分4)と化生けしょう(区分2)にあてはまるほか、日光感精にっこうかんせい▲の要素も見られる。一方の『日本書紀』では、ある村で祀られていた白い石が女性に変身したとあり、化生けしょう(区分2)にあてはまる。

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